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「ヒトと土」が生まれるまで

長年自然を撮っていた。けれど、自然の中では生きていなかった。

25年以上、私は写真家・映像作家として自然を撮り続けてきました。

朝焼けに染まる山々、深い森の静寂、海の中の生命、風に揺れる木々。
時には山へ登り、海へ潜り、野営をし、人の手がほとんど入っていない自然と向き合いながら、その一瞬を写真や映像に残してきました。

一方で仕事では、都市の建築や住宅、商業施設など、快適さと機能性を極めた空間を数多く撮影してきました。

自然も、都市も。
どちらも美しい。
けれど、その両方を見続ける中で、私の心にはずっと消えない違和感がありました。
便利になればなるほど、何か大切なものから離れていく感覚。
快適になればなるほど、なぜか満たされない感覚。

その正体が何なのか、長い間わかりませんでした。

自然は「見るもの」ではなく、「循環の中で生きるもの」だった

私はいつか、眺望の良い土地に完全オフグリッドの家を建て、自然とともに暮らしたいという夢を持っています。
しかし、ある日ふと思いました。
その夢が叶うまで、私は何もしなくていいのだろうか。

都会に住んでいても、自然を暮らしの中へ取り戻すことはできるのではないか。
そう考えて始めたのが、ミミズコンポストでした。
生ごみを捨てるのではなく、ミミズに託し、土へ還していく。

毎日少しずつ変化する土を眺めながら、私は驚きました。
それまで「ゴミ」だと思っていたものは、命を育てる資源だったのです。
土は、ただ植物を育てるためのものではありませんでした。
無数の微生物が生き、命が循環し、次の生命へつながっていく場所。

私は初めて、「自然を見る」のではなく、「自然の循環の中に参加する」という感覚を知りました。

振り返れば、25年間自然を撮り続けてきた私は、レンズ越しに自然を眺めていただけで、その循環の中では生きていなかったのです。

食べられる街との出会い

2025年の秋、仕事でイギリスを訪れる機会がありました。

イギリスには、一度訪れてみたかった町がありました。
イングランド北部にある小さな町、トッドモーデンです。

ここは、Incredible Edibleという市民活動から始まった「食べられる街」として世界中から注目を集めています。
駅前や道路沿い、病院や学校、公共施設の花壇には、花だけではなく野菜や果樹、ハーブが植えられています。

そこには「Help Yourself(ご自由にどうぞ)」という考え方があり、育った作物は誰でも自由に収穫することができます。
街を歩いていると、「食べ物を育てる」という行為が特別なことではなく、暮らしそのものになっていることに気づきます。
そして、人々は食を通して自然とつながり、人とつながり、自分たちが生きていく力を少しずつ取り戻していました。

私は衝撃を受けました。
都市は自然と切り離された場所ではない。
都市だからこそ、生態系を育むことができる。

そんな未来が、すでに現実として存在していたのです。

人生を変えた出会い

その後、日本でパーマカルチャーデザイナーのPhil Cashmanと出会いました。
Philが主催する「REAL(Regenerative Education and Learning)」に参加したことで、私の価値観は根底から変わります。

自然を守る。
環境問題を解決する。
そんな表面的な話ではありませんでした。

人間も、生態系の一部であること。
都市も、テクノロジーも、経済も、本来は循環の中に組み込めること。
そして、私たちが失っていたのは自然そのものではなく、「自然との関係性」だったこと。

私は初めて、世界を見る視点が書き換わるような感覚を覚えました。

なぜ映画をつくるのか

2026年、3年目となるEdible Tokyo Rallyに実行委員として参加した私は、東京各地で都市農やコンポスト、コミュニティガーデンなどを実践する人たちへのインタビューを収録しました。
そこで出会った人たちは、特別な人たちではありませんでした。

会社員もいれば、主婦もいる。
子育てをしながら畑を続ける人もいれば、小さな空き地を耕し続ける人もいる。
共通していたのは、ほんの小さな実践から人生が変わっていたことです。

土に触れること。
植物を育てること。
誰かと食卓を囲むこと。

それらは環境活動ではなく、人が本来持っていた感覚を取り戻す行為でした。

この人たちの生き方は、一部の実践者だけのものではない。
都市で暮らすすべての人に届くべきストーリーだ。

そして映画『THE CONDITIONS 整える者たち』の制作が始まりました。

映画のその先へ

しかし、映画はゴールではありません。

映画を観て終わるのではなく、一人でも多くの人が実際に土へ触れられる場所をつくりたい。

コンポストを始める。
火を起こす。
海水から塩をつくる。
植物を蒸留する。
味噌や醤油を仕込む。
大地を再生する。

そんな体験を通して、人と人、人と自然がもう一度つながる場所。
それが、私たちが目指す「ヒトと土」です。

私たちが本当に変えたいもの

私たちは、地球を救いたい…なんて驕った考えを持っているわけではありません。
地球は、人間がいなくなっても循環し続けるでしょう。

変えたいのは、人が自然の一部である本質への気づきを整えること。
私たちの身体の中にも、生態系があります。
腸内には無数の微生物が生き、呼吸や水、土、植物、食べ物はすべて地球の循環とつながっています。

その循環を実感したとき、人は「環境を守らなければ」と義務感で動くのではなく、「この循環の一部として生きたい」と自然に、そして心地よい行動変容が起きる。

環境対策をしたいが何をして良いのかわからない。
食に対しての不安が尽きない。
未来の環境に不安を感じている。

そんな問いの解決の糸口となることと信じています。

地球のOSを書き換える

私たちは資本主義を否定したいわけでも、テクノロジーを否定したいわけでもありません。
AIも、映像も、インターネットも、本来は人を幸せにするための素晴らしい技術です。

大切なのは、「何を目的に使うのか」。
私利私欲を満たすために競争を加速させる道具として使うのか。
それとも、生態系を豊かにし、人と自然との関係を結び直すために使うのか。

私たちが目指すのは、人のための地球ではありません。
人も、植物も、動物も、微生物も、それぞれが役割を持ち、互いに支え合いながら循環する本来の地球です。
それは壮大な理想のように聞こえるかもしれません。
けれど、その始まりは驚くほど小さな一歩です。

土に触れること。
生ごみを捨てずに還すこと。
植物を育てること。
誰かと食卓を囲むこと。

そんな日々の小さな選択が、Philの言葉を借りると、社会のOSを書き換えていくことなのだと。
私たちは、その最初の一歩をともに歩む仲間を増やしたいと考えています。
ヒトと土は、そのために生まれました。

代表理事 川村剛弘

ヒトと土とは

世界中の「人と自然が共に生きる知恵」を記録し、映像・音・教育を通じて次世代へつなぐことを目的とした、非営利型一般社団法人です。

私たちは、食、建築、教育、森林、農といった分野で実践を重ねる人々のもとを訪ね、その思想と技術を映像・写真・音・言葉としてアーカイブしています。一本の記録が生まれるたびに、この言わば知恵の図書館は育っていきます。

現在の活動

  • ドキュメンタリー映画『THE CONDITIONS』の制作(2026年10月完成予定)
  • 実践者へのインタビューアーカイブの構築
  • 音風景の記録プロジェクト「Sonic Archive」

今後の活動予定

  • 緑化推進・都市農を通じたコミュニティづくり
  • 土に関する体験型イベント
  • 実践者とのトークライブ& Farm to Table etc.